教育講演会を終えて(講演原稿)

11月29日(土)
当日ご参加できなかった方々へ・・・



 教育講演会では,群馬県太田市長で,英語イマージョン教育を取り入れた小中高一貫校「ぐんま国際アカデミー」の理事長でもある 清水聖義氏より,行政のトップというお立場から,お話をいただきました。内容を要約して掲載します(常体で表記しています。)。



演題: 国際社会を生き抜く子ども達を育成する学校教育のあり方

- 英語イマージョン教育の実践を通して -



  「ニーズ」っていうことを最近よく言われますけれども,「ニーズってなんだろう」っていうことをいつも行政の中に取り入れているんです。「ニーズ」って,まだ誰も気がづいかないけれども,いや結構,種ですけれども,結構大事なことなんだなあ,ということをいつも頭に入れて行政をやっているんですけれども,その中の一つが「英語」だったんです。

太田市は,東京から100キロ圏内なんですけれども,東武鉄道っていうのが通っているんです。そこに工業を中心に22万人の人口で,群馬県で3番目の人口が集まっています。工業は「スバル」というメーカーなんですが,アメリカから売れ始め,それに伴ってアメリカとの交流が頻繁になって,特にインディアナ州パデュー大学のある町との行き来が盛んになったんですね。そういう背景が「英語」をやるという理由の一つにあったわけです。

それ以上に,自分が地方の政治家をやっているので,歴代の総理大臣が「英語」を話せないのを見てきたんですよ。共通言語である「英語」の必要性を強く感じていました。通訳が入ると話す量は相対的に4分の1になっちゃうんですね。それに外国語の持っている意味とか日本語の持っている意味,「侘び」とか「寂」とかを詳しく分かり合うっていうことは不可能なんですよ。だから,総理大臣や外務大臣には,共通言語が必要になるんですね。日本のリーダーになる人は,共通言語を話せる人で,日本をグローバルな社会の中で引っ張っていくことが大事じゃないか,ということが分かるわけですね。

しかし,日本の英語教育は,我々が受けていたときと全くレベルが変わらず続いてきたわけですね。日本経済がよくなってアメリカに近づこうかという自信を持ち始めたら,自分が中心でありますから,英語を使うことは必要じゃなかったんですね。でも日本の経済が少しずつ経済が落ち込み,社会環境も外国と一緒にやっていかなければならないという環境になったときに,共通言語(英語)を持つ必要がある。特にリーダーになる人は,共通の言語の中で外国とも経済も環境も,あるいは政治の問題もやらなければならない時代です。

   文部科学省が,小学校5年生から英語をやろうとしても,効果はないでしょうね。週1回やろうというのはだめですよ。武道も,週1回やれということで始まった。でも,教える先生がいないんですよ。それなら「駆けっこ」でもやっているほうがよっぽどいいですよ。武道の前にもありました。「琴」と「三味線」で,それで日本文化を味わわせるというものでした。でも,味わわせる指導者がいないんですよ。英語も同じになるんじゃないですか。学校は,日本語の生活で成り立っていますから,そこで週に1時間や2時間やったときに,我々が英語をやったときとどれだけ違うものができるかというと,私は全く変わらないと思うんですよ。そこで繁栄するのが塾ですよ。学校が存在することによって,塾が繁栄するんです。学校の成績をよくしたいので,塾で訓練させて,学校で成果発表をさせるわけですね。学校の成績がいい子は,必ず塾に行っている子。それが格差社会になってくると,塾に行けない子は,大変だな,となってしまう。それなら,実際にはできないことですが,塾に行きたい子は,お金のある家の子は,午前中は塾に行ってもらってはどうか。午後から道徳とか,工作とか,家庭とかを集中してやる。塾に行けない子は,午前中に学校で本物の先生に少人数で教えてもらう。この方がずっといいと思いませんか。今でも夜中の11時,12時まで塾に行っているが,それがなくなって合理的でいい。学校の変化が塾に反映するんです。昔のように学校を出たらすぐに就職とか,農家だから農業やった方がいいんじゃないかといっている時代は,塾なんか,はやらなかったです。時代が変わって「何かに力こぶしを入れたい」というときには,必ずそういうものが発展してくる。それに(英語塾)対抗するのは何かと考えたときに,簡単に言えば最初から英語で授業しちゃったほうが分かりやすくていいんですよ。

   今日,私の市では「第九」をやっているんですけど,「ニーズ」とは,顕在化していないものを自分で見つけて,持ってきて市民に提案するものと思っています。それが,何かと考えたとき,私は「音楽」だと考えたんです。リトミックから始めてオーケストラ,演劇,歌を高校までに完成させたいと思って取り組んでいます。現在,太田芸術学校のオーケストラ部門に在籍しているのは,600人。専門家を呼んでやっているんです。楽器を購入するのもたいへんですが,市を明るく活気付けるという信念ですよね。

   「英語」の特区を取るときも,容易じゃなかったんですが,これも信念で取った。今から10年前,あの当時,義務教育でやるのは非常にたいへんだった。しかも「一条校」となると容易ではなかったですよ。まず,教員の問題があったんです。外国人の教員は,日本の教員免許を持っていない。日本の教員になるには,日本の免許を取らなくてはならない。でも,教員免許を取ることは,容易なことではないんです。これをどうするかというのが,一つの問題でした。もう一つは,日本の義務教育は,検定教科書を使わなくてはならないんですよ。ところが,英語で授業をするのが「ニーズ」だとすれば,この教員の免許と教科書の問題がある。文科省から指摘を受けたんです。そこで,何とかしなければということで,特区の担当である通産省と相談して,何とか特別の免許を県から出してもらえることになったんですよ。これで教員の方はOKになった。教科書は,仕方がないので全教科書を翻訳しました。日本語の教科書は形だけ持っていて,実際には翻訳した教科書を使うことにしたわけです。

それと,もう一つ言えるのは,県との関係です。県には,「一条校」の認可権があります。国と県,県と市とを考えてみると,県は市の仲間になるものじゃないですか。ところが,県は国の出先機関のようなところがあるんですよ。権限を握ったら絶対放さないという感覚があって,いろいろ制限を加えてくるんです。例えば,田んぼを開発したいと言っても,市民が皆宅地の方がいいじゃないかと言っても,県は許さないというところがあります。うちの学校も特区ということで国がつくってもいいですよと認可しても,最後に立ちはだかったのが県なんです。国がいいと言っているのに,県がだめだと言ってるんです。国が「英語イマージョン教育」を取り入れた学校をつくってもいいと言ってくれているのに,県が補助金をくれないとか言うんですよ。これが「ぐんま国際アカデミー」をつくったときの一番たいへんなことでした。だから,ここ(ホライゾン学園)が「一条校」をつくるのは,とてもたいへんなことだと思います。「一条校」は,やろうとしていることが的確であるならば,問題なく認めるべきです。「ぐんま国際アカデミー」で私がやろうとしていることは,英語で「グローバル社会」に飛び出していくことができる環境をつくるということです。これは,絶対に間違ったことではなく,しかも「ニーズ」だと思っているんですよ。だとしたら実行しなければならない。「ぐんま国際アカデミー」では,全員が英語で授業をしていますので,こういう学校を宮城県,岩手県,福島県など,全国に散らばすことが大事だと思っているんですよ。理想は,学校ができたらみんなの手本となって見てもらって,全国にイマージョンの学校をつくって,総理大臣は英語で議論できて,ディベートができないとなれないとか,そういう環境にしていきたい。会社に入るにしても,英語で「問う」こと,何が問題かということを自分で「問う」力をつけなければならない。我々には,「問う」力がない。今の教育は,先生の言うことを口まねして,文字にして,考えないで,先生が言ったことをそのまま表現すれば満点が取れて,いい学校に行ける。こういうシステムは,おかしいと思いますよ。もう一つの問題点は,自分で考えるということではないか。今の教育では,考える力がぜんぜんない。今,どのような学力テストをやっているか知りませんが,言われたことの復唱が上手な人が頭がいいという社会は,私たちがアメリカに右ならえをしていた時代の話で,これからはそういう時代ではないと思うんです。それともう一つ「議論する力」は絶対なければならないと思うんですよ。世界の流れは,日本の教え育むというレベルから,違うレベルに移らなければならない。こういうことを英語でやる。私たちの学校は,IBの認定校になっているんです。IBというのは,世界標準です。私の学校ではIBを中心とした,自分で考えて,自分で表現できる子ども達を育てることを目指している。でも,保護者はそういうやり方に不安を持つんですよ。なぜなら,今までは教えてもらったことを,たいして考えもしないで,表現して伝えることができる子が優等生ですから,それで受け入れる学校がほとんどでしたから。だけど,それで大学に入って何ができるんですか。時代は変わりつつあることを感じていない。でも,最近,文部科学省が英語教育をやらなければならないと始まったら,大学入試の形も少しずつ変わってきた。IBで大学に入れる高校を200校つくりたいと言い出した。でも,200校つくりたいと言っても,考え方は日本語でいいのではないかということであるが,私は日本語でIBをやるというのはいかがなものか。IBをやるなら英語でなければならないと思っていますよ。英語で授業を展開するには,英語イマージョンをやっている学校が「一条校」になって,全国にちりばめられて,そういう環境づくりを誰かがやらなくちゃいけないんではないか。ただ,私学なので「ぐんま国際アカデミー」は市が支援していますが,校舎建築や維持,人件費などお金がかかります。それに日本人の教員は,一度教員になったらしぶとく辞めることはないんですが,外国人はけっこう安易に辞めるんですよ。学校は,先生がいなくなれば,子どもに満足な教育ができませんから,学校が成立しなくなる。これがたいへんですね。学校は,優秀な先生がどれだけ集まるかが,いちばんだと思います。そういう意味で先生を大切にしなければならない。「ぐんま国際アカデミー」では,小学校は,先生方が安定している。中学校もまあまあかな。高校は,IBが注目されてくると,IBができる先生の取り合いになる。それに外国人は自己主張が強くて,問題になることがあります。こういうことも経営面では大変な話だと思います。

それと大学受験ですね。お母さん方は,気になるところなんです。うちの傾向を見ますと,小学校ではやめないんですよ。6年間安定している。中学になると,そのときにうちの学校にいたらいい大学は入れないんじゃないかと,親が頭をかすめてしまうわけですよ。そんな英語ばかりやって,そんなのだめじゃないの,もっと勉強しないと大学は入れないじゃないのって。それで抜けていくのは,慶応の中学に抜けていきますね。これは目立ちますね。それはそれでいいんじゃないと思いますね。でも合格しているからすごいですよね。それでもまだ中学は少ないです。高校になると,これがぼろ抜けしていくんですね。なぜかというと,お母さん方が大学受験したときの感覚が抜けていないんです。つまり,「XY」とかのレベルにしかないから,IBとか,ものの考え方を我々日本人は考えようよ,なんていうと信頼感がなくなんですよ。他に行った方がいいよとなる。でも,抜けないで在学していた子は,東大とかは行けなかったけど,お茶の水大に入っている。あとは,秋田教養とか,宇宙飛行士になりたいってアメリカの大学にいったのもいます。それから早稲田,慶応,中央の法科にいったのもいる。立命館もいます。そういうのがいるんだけども,お母さん方は自分の子はもっと頭がよいと思っているんでしょうね。だから,学校を信頼していないですよ。信頼している人が少ないっていうんですかね。だから,やめていっちゃうんですよ。だから学校経営はたいへんですよ。高校までやっていると。やめた子は早稲田の理工学部に入った。早稲田の理工学部は,総長が言っていましたけど,英語をものすごく大事にしている。群馬大の医学部とかにも入っているみたいですね。高校は,前橋高校だったり,太田高校に行ったりしている。それは,この高校にいたら早稲田に受からない,慶応にも受からないという,噂話が信憑性をもって広く伝わっていくんですよね。でも,今年の卒業生は,17,8名だったけれども,結果はさっき言ったとおり,早稲田に行ったり,秋田教養に行ったり,慶応,お茶の水,津田塾に行ったりしている。この卒業式がおもしろい。卒業式をやっている体育館の後ろに,他の学校に行った子達がたくさん来るんですよ。なぜかというと,学校がよかったんですよ,私に言わせれば。好きだったけれども,お母さん方が,ここはだめよね,あっちがいいから,そういうので。私は,みんなこの学校がよかったんだと思っている。早稲田の本庄高校に行った子が来たとき,何でもいいから,早稲田の宣伝でもいいから,中学生に英語で話してよっていったら,ぜんぜんしゃべれない。本当に悲しいって言ってたね。日本の大学に行った卒業生が来て,生徒と話しているが,ぜんぜん英語で話せなくなっているんですよ。それは,日本語の環境に変わってしまっちゃうんですよ。だから,イマージョンというのがすごく大事だってことが分かります。

秋田でも,このような学校をつくりたいという話がありました。そのとき,ぐんま国際アカデミーの実力はどうなのかという話になって,秋田教養大の学生とうちの子とが,環境問題についてディベートをやったんですよ。そのとき,うちは6年生だったんですけど,大学1年生と比較してまったく遜色なかった。考え方も,英語力も変わらなかった。だけども,子ども達というのは,あっという間に環境に染まって変えられてしまう。もったいないなといつも私は思うんです。うちではTOEFLを中学生全員にやらせているけれども,満点の子もいるし,大学のレベルではない,ぜんぜん上です。それが急に解き放されて,日本語の社会にもどってしまうと,高校生でも一気に落ちてしまうんですね。だから,大学を受験するときにTOEFL何点以上というときには,必ず過去3年以内の成績でなければいけないというようになっているんですよ。大学もちゃんと知っている。3年何もしないと落ちちゃうということが分かっているんですね。

これから日本の社会で英語の力が必要なのと,あとはディベートとものの考え方を訓練していく,基礎をつくる,英語イマージョン教育をやる「一条校」を認めていくというのがほんとうに大事なことである。「ぐんま国際アカデミー」はいつでもサンプルになるよう努力しています。でも,何で太田なのって言われる。だから,仙台のような巨大な都市では,絶対やるべきなんです。英語の必要性とか,英語で考えたり,英語で表現したり,英語でディスカッションする,問題点を指摘するというようなことができることが,どれだけ大事かということを,ホライゾンに示してもらえればたいへんありがたい。そして,さらに中学に進み,もったいないから高校に進んでいってほしい。もし,仙台に高校がなければ,うちに寄宿舎をつくるから太田に来てほしい。来てみてほしい,必ず帰すので,東北大に。そういうスタイルができて,またうちの高校も生かしてほしとおもうんです。

これからは,秋田にも,福島にも全国にこういう学校を増やして,日本の教育を変えていく。それが日本人の「ニーズ」だと私は思っているんですよ。絶対に花開く種になっていると私は思っています。ホライゾン学園で,ぜひ成功させてほしいと思います。

確かにいろいろとお金がかかる。しかし,これからは子どもの時代である。子どもにお金をかけて,いい環境を与えて,グローバルな人材に育ていくことだと思います。

いろいろ言いましたが,これで私の話を終わります。